70年代研究所

70年代~80年代!あの時代にタイムスリップ!

水木しげるの、妖怪よりも奇々怪々な人間の記録

 もうすぐ8月15日。「終戦記念日」です。76年前、1945年のこの日、第二次世界大戦が終わりました。というか、日本が敗戦したからほんとは「敗戦記念日」ですよね。なんつーバカな戦争をやったんだと思います。日本人の戦死者数は約310万人。うち軍人の戦死者数は約230万人と言われています。これみんな、そのへんのお兄ちゃんお姉ちゃん、おじさんおばさん、子供たち、お年寄り。庶民にとって戦争って敵国だけが敵じゃなくて、自国も敵ですよね。国のせいで殺されるんだから。

 

今回は太平洋戦争に行かされた兵士が、実際どんなかんじだったのか、よくわかる戦記物をご紹介いたします。作者は水木しげる先生。妖怪漫画の第一人者ですが、実際に最前線の戦場を体験し、片腕も失った壮絶な体験をされた方です。

 

●水木 しげる
生誕 1922年3月8日~2015年11月30日(93歳没)

代表作:『ゲゲゲの鬼太郎』『河童の三平』『悪魔くん』『総員玉砕せよ!』『のんのんばあとオレ』『日本妖怪大全』、『コミック昭和史』

子供の頃は、勉学が苦手で遅刻が多く、風変わりな、ひょうひょうとした子供だったが、人一倍体力があるガキ大将でもあった。高等小学校卒業後、画家を目指してて大阪で働きながら学ぶ。1943年に徴兵され、太平洋戦争へ。大日本帝国陸軍軍人二等兵として、ニューギニア戦線・ラバウルに出征。米軍の攻撃で左腕を失うなど過酷な戦争体験を重ねる。一方、現地民のトライ族と親しくなり、ニューブリテン島に残ることも希望したが、周囲の説得で日本へ復員した。終戦後は紙芝居の専業作家などをしながら苦労を重ね、やがて『ゲゲゲの鬼太郎』が大ヒットして、妖怪ブームを巻き起こす。

 

 


総員玉砕せよ! (講談社文庫)

 昭和20年3月3日、南太平洋・ニューブリテン島のバイエンを死守する、日本軍将兵に残された道は何か。アメリカ軍の上陸を迎えて、500人の運命は玉砕しかないのか。聖ジョージ岬の悲劇を、自らの戦争体験に重ねて活写する。戦争の無意味さ、悲惨さを迫真のタッチで、生々しく訴える感動の長篇コミック。

 

 


水木しげるのラバウル戦記 (ちくま文庫)

太平洋戦争の激戦地ラバウル。水木二等兵は、その戦闘に一兵卒として送り込まれた。彼は上官に殴られ続ける日々を、それでも楽天的な気持ちで過ごしていた。ある日、部隊は敵の奇襲にあい全滅する。彼は、九死に一生をえるが、片腕を失ってしまう。この強烈な体験が鮮明な時期に描いた絵に、後に文章を添えて完成したのが、この戦記である。終戦直後、ラバウルの原住民と交流しながら、その地で描いた貴重なデッサン二十点もあわせて公開する実話エッセイ。 

 

 


コミック昭和史 全8巻セット

 ねずみ男を狂言回しに、昭和の出来事と自身の半生を振り返る。水木しげるの軌跡はそのまま昭和史に重なっており、実体験から知る当時の流行や庶民の生活なども描かれている。また、水木は太平洋戦争の場面になると、どうしても力が入ってしまうと述べており、特に多くのページを費やしている。本作品に対しては「戦争で死んだ人への鎮魂を込めた自分史」とも述べている。

 

水木しげる先生の戦記物は、リアルな中にもどこかユーモアがあります。徴兵されて南方へ送られ、南国の景色に感動したり。そりゃそうですよね、あの頃の日本人が見たこともない南国。楽園に来たのかと錯覚します。その楽園で地獄が始まった違和感も描かれています。

 

その地獄とは、米軍の攻撃よりむしろ・・・食料がない、マラリアが蔓延、毎日上官から殴られる、灼熱の中で基地設営など奴隷のように働かされるなど、日本陸軍の軍隊生活自体が地獄なのです。そして、すぐ自決を迫られる。敵に捕まるくらいなら玉砕せよと命令される。逃げ帰ってくると殺される。これが地獄じゃなければ何が地獄でしょうか?

 

でも楽観的な水木先生は、死に直面してもどこか他人事というか、人間をただの生き物としてとらえているというか。「人間てバカだなぁ。オレ死ぬんだろうなぁ。でもうまいもんを腹いっぱい食ってから死にてえなぁ」みたいな、運命に対する諦めと、絶望の中でも生物としての食欲などを隠すことなくさらけ出していて、そこがリアルなのです。

 

もちろん戦争賛美ではなく、かといって反戦を声高らかに叫ぶわけでもなく、ひとりの庶民から兵士にさせられた自身の体験を、淡々と綴っている貴重な物語なのであります。

 

戦争ってほんと恐いです。そのへんを歩いてる一般庶民の我々が、いざ国が戦争を始めると、とたんに駒(兵士)にさせられて、他国の兵士と殺し合いをさせられるわけでしょう。国ってなんなんだ? と思ってしまいます。

 

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水木しげる先生が描く伝記物も、いい味出てます。

 

ヒットラーにしても近藤勇にしても、英雄でもなく極悪人でもなく、所詮はただの人間が、数奇な運命によって祭り上げられ、変貌していく。なんかめちゃくちゃな人生になっていく普通の人間を淡々と描いているかんじ。

 

ヒットラーや近藤勇に肩入れも思い入れもしないし、共感も批判もしない。ただのその時代の生き物として描いてます。それをどうとるのかは読者次第なのです。

 

 


劇画ヒットラー (ちくま文庫 み 4-12)

 

 


劇画近藤勇―星をつかみそこねる男 (ちくま文庫)

 

 

ある意味“妖怪”よりも奇々怪々な“人間”という生き物。そんな人間を歴史と共に描いた、水木しげる先生の戦記物と伝記物。終戦記念日にぜひお読みになってはいかがでしょうか。

 

 

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